回線束ね装置とやらを見に行く

会社にデモの案内が来ていた「回線束ね装置」とやらを見に行った。

これは丸紅さんが売っているもので、FomaPHSISDNなどの狭帯域の伝送装置を8台まで接続し、帯域幅を広げる(そうして簡易動画や高品位音声伝送ができるようにする)という装置だ。

実はPHS網やFOMA網を使って音声伝送する装置を使っていて、今ひとつ回線品質が足らない(Foma網はもともと誤りが多いし、PHS網はハンドオーバーの時に下手するとデータが途切れる)という問題を感じていたので、ロードバランサというより「無線区間に冗長性をつける」ための装置として使えたらどうだろうと感じていた。

★使えるかどうかは…使い方しだいかな。

デモではFOMAカードを4枚ざしして、250Kbpsの動画を流していたがいまいち。
画質がいまいちなのと、時々画面にノイズが出ていること。地下街に移動したときにコネクションがガッツリと切れたのは致命的*1

ピークやバーストエラーが出たときにデータががっぱりなくなってしまうのがチト問題。

これは、機材の問題というより、運用の問題という点もいくらかある。

1つ目はCODECがしょぼくて、画像によってトラフィックにピークが出てしまうこと*2


2つ目はコネクションにUDPを使っているにもかかわらず、エラー訂正のために再送を行っていること。無線網ではエラーはバースト状に出るので、エラーを再送によって補おうとすると、瞬間的に2倍以上のトラフィックが流れることになる。また、再送を行うということはパケットが1往復半することになるので、伝送遅延がやたら大きくなることが予想される。

3つ目は運用上の問題で、帯域の冗長性を考えるなら、同じキャリアを4多重したら同じ時に途切れるので損だということ。PHS2本とFoma2本とかだったら、回線品質は良いが、基地局ハンドオーバーに時間がかかるPHSと、誤り率も遅延も大きいFomaとの使い分けができて回線も切れにくくなるだろう。

★おとしどころはどこ?
こういう機材を見ていて感じるのは、放送局が求める機材と業者の持ってくるものとでは「可用性」の認識に大きな差があるということだ。

わたしたちの仕事場には「使えるかもしれないけど、使えないかもしれない」ものははっきりいって必要ない。

戦場報道みたいな極限環境では「情報がない」のと「情報があるかもしれない」の違いは大きいけど、ある程度インフラがあるところで使う装置で「テストではちゃんと動作したけど、本番はNGでした」なんていうことは、話にならないのだ。

その点で公共網に依存するというのはそれだけで結構怖い物がある。

現に何年か前に、PHSを使った音声伝送装置をもって某高校に行ったときは、
「授業中にテストを行ったときには、正常に接続可能だが、放課後は64K接続できない」なんてかなり困った状態があった。

Fomaにしても、画像伝送をFomaパケット通信で行う装置を札幌ドームで使った時には、開場前のテストで帯域が取れるものの、客入れ後はまったく帯域が取れず、まったく使い物にならないということがあった。

仕様はどうするのがいいのか

●音声用伝送回線のばあい
音声伝送用であれば、間違いなく要求としては「掛け合いに違和感がないこと」だろう。

掛け合いに違和感がないのは、しゃべってから返答があるまでの遅延が0.5秒とかそのくらいなので、バースト誤りに対してそれを再送によって補正することは不可能。

また、バースト誤りなので、時間軸方向にインターリーブを掛けてやらないと、パケット内に何パーセントか誤り訂正符号を入れたぐらいではパケットごと脱落してしまうので、誤り訂正が期待できない。

…ということははっきりいって、下手な誤り訂正をするぐらいなら「回線を二重化」してしまったほうが問題が少ないと思う。

2ルートからデータを送ってやって、受信側で「どちらからきたパケットを使用するか」選択すれば低遅延で誤りの少ない回線を構築できるし、輻輳が生じることも無い。

また、当然のことながら「経路ダイバシティ」をかけるわけなので、経路は別のタイミングでエラーが発生するものが良い。ということでDDIPocket+Fomaとかっている組み合わせにすれば経路が分かれるのでさらに安心。

●映像用伝送回線のばあい
映像用になると若干話が違ってくる。4回線取ったとしてもスタジオカメラなどとの解像度の違いは明らかなので、運用としては、スタジオがあった上で「ちょっと見せる」くらいのかなり制限されたものになる。*3そのため、回線品質に対する要求はかなり音声に比べてゆるくなる。

また、リップシンクが会わなくなるので制作上の制限は多くなるが、音声と映像の伝送遅延が違っていいなら伝送遅延も比較的大きくても良い。

ただし、再送による誤り訂正は前出のように回線品質が悪化したときに輻輳を起こす原因になるので、効果的な方法とは考えにくい。

ということで

  1. 音声と映像は別に扱う(伝送帯域が数メガとか取れるのならば音声も同時に扱えるが、原状ので伝送帯域では遅延が大きすぎて厳しい)
  2. 誤り訂正はフィードフォワード(送り側でデータ冗長性を確保し、再送しない)
  3. 回線冗長性はN+1を確保(1回線が完全に断になっても、まったく問題なく伝送できるように回線を設計)

という設計がいいのではないかと思う

*1:期待していないけど、これで地上から地下に移動しても画像が途切れなかったら評価高かったのに。

*2:伝送回路の前に巨大なバッファがあったとしても、バッファの残量を検出して帯域を絞らないと、どこかで破綻する

*3:それで中継本線を構築することはありえない。